※ この物語はフィクションです。

元気を吸われる、という言葉は大げさに聞こえる。でも朝の地下鉄で、誰にも話しかけられていないのに疲れている日がある。エナジードレインは、その説明しにくい消耗に形を与えた。

砂時計の砂は、翌朝も上にいた。落ちない砂を見ながら、りょうたは次を考えた。時間を遅らせたあと、相手は活力そのものを抜くに違いない。抜かれた人は、遅く見える。遅さと虚無は、似ている。

白い糸は、顕微鏡で見ても糸ではなかった。光の軌跡が、残像として砂に残っただけだ。残像を証拠と呼ぶのは、正確ではない。正確ではないものを、りょうたはそれでも並べた。並べないと、忘れられる。

タクヤの石は、ここにはない。ないものが、拳の内側で熱い。ないものを証拠にできない。できないことを、彼は「保留」とは書かなかった。書いたのは、「預かり」だった。預かりは、いつか返す。返す相手が、未来の少年なのか、今の福岡なのかは、まだわからない。

白い糸

公園の砂が、風もないのに小さく舞った。子どもの声が途中で細くなる。ベンチに座った老人が、自分の名前を思い出すのに、三秒よけいにかかった。白い糸が、胸から空へ上がっている。紫色の怪物、エナジードレイン。口は渦で、手は吸管だ。

「活力を、全部吸う」

りょうたの掌に、以前、未来の少年タクヤが置いた石の熱が残っていた。石そのものは、ここにはない。五人の拳の内側が、同じ青で熱い。

「この力を、託したはずだ」

タクヤの言葉は、記憶の中にある。吸う力に、返す力をぶつける。それが、託された使い方だった。

渦の中心へ、五人は進む。吸う力と返す力が、白い線でぶつかる。

「エナジーブースト」

光が逆流する。倒れていた胸が、一度、大きく膨らんだ。怪物の渦が、途中で詰まる。渦は薄れ、人々がまばたきする。

「守るべきは、バランスだ」

りょうたは空を見た。吸いすぎも、止めすぎも、この街には似合わない。現場の砂の上に、白い糸の残りが、髪の毛ほど残っていた。彼はそれを、電池やスプーンと同じ列に並べた。証拠は、日常の屑の形をしている。

預かり

白い糸は、顕微鏡で見ても糸ではなかった。光の軌跡が、残像として砂に残っただけだ。残像を証拠と呼ぶのは、正確ではない。正確ではないものを、りょうたはそれでも並べた。並べないと、忘れられる。

タクヤの石は、ここにはない。ないものが、拳の内側で熱い。ないものを証拠にできない。できないことを、彼は「保留」とは書かなかった。書いたのは、「預かり」だった。預かりは、いつか返す。返す相手が、未来の少年なのか、今の福岡なのかは、まだわからない。

渦は薄れた。人々が、自分の名前を思い出すようにまばたきする。吸いすぎも、止めすぎも、この街には似合わない。バランスという言葉は、きれいすぎる。きれいすぎる言葉を、りょうたは現場では使わず、手帳の中だけに置いた。

白い糸は切れたのではなく、預けられたように消えた。五人は勝った。けれど、力の貸し借りには、必ず返す日が来る。

砂の上の残像は、翌日には消えていた。消える証拠は、記憶にしか残らない。記憶を、五人で分担する。分担が、この回の答えだった。

未解決記録

奪われた活力は消えていなかった。装置には『停止候補時刻』として圧縮され、まだ起きていない誰かの疲れと結び付けられていた。