※ この物語はフィクションです。
同じ敵が戻るとき、怖いのは強さではなく慣れだ。またか、と思った瞬間に反応が遅れる。運動キライダーは、その一拍を待っていた。
卸の糸を辿っているあいだに、空が緑に濁った。糸の先に、最初の男が座っていた。予測どおりだった。予測どおりであることが、りょうたには、少しだけ怖かった。
玉座の位置は、第1話と誤差二メートルだった。誤差二メートルは、設置の雑さだ。雑さは、いつもの男だ。発明者なら、誤差を嫌う。使用者は、誤差を気にしない。気にしない者が、最後まで同じ電池を使う。
けんたの言葉を、りょうたは手帳の表紙の裏に写した。人が動いて健康でいること。それが、この事件の反対側だ。事件の名前は、生活習慣病団。反対側の名前は、まだない。ない名前を、床の音が代わりに名乗っていた。
リモコンの帰還
けんたが、海のほうを見た。潮の匂いの中に、甘すぎる霧がある。福岡タワーの足元で、お菓子の玉座が再構築されていた。リモコン。ハンバーガーの王冠。運動キライダーが、第1話と同じ笑みを浮かべている。
「動かなくていい。動かないほうが、楽だ」
霧を吸った人が、その場にソファを生やす。足が、家具になる。街の音が、一つずつ止まる。
「甘い匂いだ。腹じゃない。足が重くなる」けんたが言った。
りょうたはうなずいた。既視感ではない。続きだった。第1話の電池、第2話の同じ型番、第8話の旗の裏。全部、ここに回収される。
五人は霧の中を走った。たえのステップが道を開け、ふかまっくすが玉座までの最短を線で示す。キライダーのリモコンが光る。五人の拳と足が、同じ拍に重なった。りょうたが最後に踏み込み、両拳を玉座の中心へ沈める。
「キックボクシング・スピリット・バースト」
霧が割れ、ソファが消える。リモコンの電池が、また床を転がった。人々が、自分の膝を見て、立ち上がる。
バッグの音が戻った。けんたが、ミットを抱えたまま言った。
「一番大事な戦いは、人が動いて健康でいることだ」
りょうたは電池を、今度は拾った。型番を確認する。同じだ。同じものを、何度も使う男は、新しいものを発明していない。習慣で、人を止めている。習慣の名前が、生活習慣病団なのだと、そのとき初めて、名前が正確に見えた。
使用者
玉座の位置は、第1話と誤差二メートルだった。誤差二メートルは、設置の雑さだ。雑さは、いつもの男だ。発明者なら、誤差を嫌う。使用者は、誤差を気にしない。気にしない者が、最後まで同じ電池を使う。
りょうたは、転がった電池を、今度は拾った。型番を確認する。同じだ。同じものを何度も使う男は、新しいものを発明していない。習慣で、人を止めている。習慣の名前が、生活習慣病団なのだと、そのとき初めて、名前が正確に見えた。
けんたはミットを抱えたまま言った。一番大事な戦いは、人が動いて健康でいることだ、と。りょうたはその言葉を、手帳の表紙の裏に写した。事件の反対側だ。反対側の名前は、まだない。ない名前を、床の音が代わりに名乗っていた。
勝利のあと、りょうたは笑いきれなかった。キライダーは倒れた。だが同じ型番を使い続ける誰かの設計図は、まだ机の上に広がっている。
霧は引いた。引いた霧の下で、男は消えた。消えた男を、終わりとは呼ばない。同じ電池を使う男は、また同じ顔で戻る。戻るまでの間を、レッスンで埋める。埋めることが、この回の終わり方だった。
未解決記録
砕けたリモコンから、戦闘結果だけが海の方向へ送信された。敗北ではなく、五人と市民がどの瞬間に動き直したかを持ち帰る信号だった。
