※ この物語はフィクションです。
甘いものは敵ではない。疲れた日の小さな味方でもある。だから過食魔団は、甘さそのものではなく、選ぶ力を奪う量とタイミングで攻めてきた。
旗の裏の電池を確認した翌日、公園のベンチに甘い袋が並び始めた。授業を残せば、口を狙う。相手の手順は、一貫していた。
卸の取引先リストは、公開されていない。公開されていないものを、りょうたは合法の範囲で辿った。電池を扱う店と、菓子の卸が、同じビルの別階に入っていた。別階は、偶然に見える。偶然に見える配置を、相手は好む。
子どもの指の赤い跡は、翌日には消えていた。消える傷は、記録に残りにくい。残りにくい傷を、たえは写真に撮らなかった。撮らずに、皿を出した。証拠より、手の向きだ。手の向きが変われば、卸の数字も、遅れて変わる。
無料の袋
りょうたの連絡は、昼過ぎに入った。新しい組織。名前は過食魔団。子どもに向けて、健康に悪い食生活を配っている。
現場は、住宅街の角だった。ハンバーガーの頭、ソフトクリームの帽子、骨の飾り。怪物たちが、無料の袋を子どもたちの両手に渡している。油の匂いが、風より先に来た。袋の取っ手が、子どもの指に赤い跡を残す。
「許せない」
ゆうすけの声が、ビニールより大きかった。たえは、子どもの手が袋に沈むのを見て、唇を噛んだ。戦いは、袋を奪うことではない。手の向きを変えることだ、と彼女は先に理解した。
皿
五人はアンカレッジに戻った。土間に、もうひとりの靴があった。さとる。オレンジの意志を胸に、拳を上げている。
「僕も、一緒に戦いたい」
たえが、皿の話をした。ふかまっくすが屋台の見取り図を描き、けんたが場所を海風の通る広場に決めた。白いテントに野菜と出汁の湯気が並ぶ。たえとりょうたが皿を渡す横で、さとるが声を張った。「一皿ずつなら、僕にも運べる」。奥で、過食魔団が歯を鳴らしている。
子どもの手が、袋ではなく、緑の葉へ伸びる。広場の空気が、少し軽くなった。袋はまだそこにある。手の向きが変わった分だけ、影響力は弱まる。
「よくやった。終わりじゃない。次に備えろ」
けんたの警戒は、舌を出したあとも解けなかった。りょうたは、無料の袋の内側に小さなシールを見つけた。生活習慣病団の紋ではない。ただの製造番号だ。番号を辿ると、市内の卸が一つ浮かぶ。卸の取引先に、リモコンの電池を扱う店があった。糸は、細い。細い糸ほど、切れにくい。
手の向き
袋の内側のシールは、生活習慣病団の紋ではなかった。製造番号だ。番号を辿ると、市内の卸が一つ浮かぶ。卸の取引先に、リモコンの電池を扱う店があった。電池を扱う店と菓子の卸が、同じビルの別階に入っている。別階は、偶然に見える。偶然に見える配置を、相手は好む。
子どもの指の赤い跡は、翌日には消えていた。消える傷は、記録に残りにくい。たえは写真に撮らず、皿を出した。証拠より、手の向きだ。手の向きが変われば、卸の数字も、遅れて変わる。
さとるは皿を運び、新しい列の端に立った。列の端は、目立つ位置ではない。目立たない位置で、戦いは続く。続く戦いを、けんたは「終わりじゃない」と呼んだ。呼び方は、正確だった。
野菜を食べた子どもが偉いのではない。自分で選んだことが強いのだ。りょうたは、皿の上にも戦場があると知った。
りょうたはシールを手帳に貼った。糸は細い。細い糸ほど、切れにくい。切れにくい糸の先に、最初の男がいる。いることを、彼は急いで証明しない。証明は、次の霧が連れてくる。
未解決記録
無料の袋は、食べさせるためだけに置かれたのではない。誰が手に取り、誰が戻し、誰が他人へ譲るか。公園全体が選択の測定器になっていた。
