※ この物語はフィクションです。

運動は、特別な人だけのものではない。子どもの授業、通勤の階段、買い物帰りの坂道。不活発連合は、それを全部「やらなくていい」に変えようとした。

若者がジャブを覚え始めてから、十日後だった。たえの予感は、当たった。次の標的は、子どもの授業だった。

教育委員会の資料は、公開されていた。運動の時間を減らす案は、予算の項目に紛れていた。紛れる書き方は、慣れた人間の書き方だ。不活発連合は、旗を立てる前に、書類を立てていた。

運動会のあと、旗の裏の電池ボックスをりょうたが開けた。配線は雑だ。雑な配線で、制度を動かそうとする。制度は、雑な配線に弱い。走る音は、雑な配線より強かった。強かったからといって、書類が消えるわけではない。書類は、別の週に、別の名前で戻ってくる。

禁止された運動

ニュースは、昼のテレビから入った。福岡市内のいくつかの学校で、運動の授業がなくなるかもしれない。画面の奥で、灰色の体がソファに沈んでいる。旗には大きな文字。NO TRAINING ALLOWED。

「あり得ない」

ゆうすけの声が、ジムの壁に当たった。けんたの眉が寄る。たえは、子どもの下駄箱を想像して、唇を結んだ。黒幕の名は、不活発連合。動かないことを、正義のように配る組織だった。

グラウンドの白線は、雨のあとも残っていた。書類の中だけが、その線を消したがっている。りょうたは手帳の系列を見た。リモコン、計量、集音、時計、遮光、画面。次は、制度だ。日常の部品から、社会の部品へ、段階が上がっている。

本部

五人は、旗の下へ行った。室内は常春のように暖かく、体を起こす理由が、家具から削られていた。ソファの谷間に、人の形だけがある。

「子どもにとって、運動は心も体も成長させる」

たえの声は、レッスンのときより低かった。ふかまっくすが旗の模様を見て、教室の掲示物の偽物だと呟く。言葉だけでは、旗は揺れない。

りょうたが、床を踏んで言った。

「運動会を開く。大切さは、走る音で証明する」

白線

提案は通った。福岡小学校のグラウンドに、スタートラインが引かれる。五人が並ぶ。その後ろに、子どもたちの靴が揃う。けんたの掛け声で、足が地面を思い出した。

走る音が、旗の文字より大きかった。子どもたちの息が白い。親の拍手が、ソファを遠ざける。授業は、残った。

「勝った顔するな。会議は来月もある」

けんたはそう言って、舌を出した。現場の旗の裏に、小さな電池ボックスがあった。型番は、第1話と第2話と同じだった。りょうたは、もう驚かなかった。制度の裏にも、同じリモコンがいる。

書類と白線

教育委員会の資料は、公開されていた。運動の時間を減らす案は、予算の項目に紛れていた。紛れる書き方は、慣れた人間の書き方だ。不活発連合は、旗を立てる前に、書類を立てていた。

運動会のあと、旗の裏の電池ボックスをりょうたが開けた。配線は雑だ。雑な配線で、制度を動かそうとする。制度は、雑な配線に弱い。走る音は、雑な配線より強かった。強かったからといって、書類が消えるわけではない。書類は、別の週に、別の名前で戻ってくる。

子どもたちの息が白い。親の拍手が、ソファを遠ざける。授業は残った。残った授業を、勝利とは呼ばない。呼ばないまま、けんたは舌を出した。舌の奥で、警戒は解けていない。

白線はただの線だ。けれど、その線の前に立つだけで、人は少しだけ前へ進む。たえは、その小さな一歩こそ守るべきものだと思った。

電池の型番は、第1話と第2話と同じだった。制度の裏にも、同じリモコンがいる。いる場所が、家庭から社会へ上がった。上がった段階を、りょうたは手帳の新しい頁に書いた。頁の題は、まだ付けない。

未解決記録

運動時間を減らす文書は、会議が開かれる三日前に完成していた。白い点は決定を操るのではなく、人が反対を諦める時刻を先に知っていた。