※ この物語はフィクションです。

ダイエットの言葉は、福岡の昼休みによく似合う。サラダを選んだ安心、夜のラーメンへの罪悪感、短期間で変わりたい焦り。ダイエットレジストは、その焦りをいちばん甘い罠に変えた。

二つの虹が消えても、手帳の型番は残った。りょうたは、同じリモコン系統が別の顔で戻ってくると予測した。戻ってきたのは、空ではなく、皿の上だった。

保健所に、同じ週の相談が十五件入っていた。極端な食事制限、めまい、子どもを残しての入院。原因食は特定できない。特定できないことが、特定の形をしていた。数字を恐れる心は、すでに市内に十分あった。怪物は、その心を借りただけだ。

計量スプーンは、百円店で売っている。りょうたは同じものを買って、並べた。現場のものと、店のものは、同じ型だった。特別な凶器ではない。特別ではないものが、特別な被害を出す。それが、この一連の事件の型だった。

巻尺

中洲の路地を、巻尺が蛇のように這った、という通報は、最初、ただの冗談に聞こえた。現場へ行くと、冗談では済まなかった。薬の瓶が関節になり、数字の目盛りが歯になったものが、屋台の蒸気の中から身を起こしている。後にダイエットレジストと呼ばれる。

「無駄な食事制限で、人を壊す」

怪物は、そう言ったように聞こえた。看板のカロリー表示が赤く点滅する。歩く人が、味を忘れる。福岡の「おいしい」が、罰のように扱われ始めた。

体重計の音声が、更衣室で同じ数字を繰り返す。たえは子どもの弁当に人参を入れながら、自分の皿だけを減らしていた。箸が止まる。やがて彼女は、自分の皿にも人参を戻した。減らす勇気より、食べて動く勇気を選んだ。けんたのボードは真ん中から裂け、ふかまっくすのソフトは保存の直前に落ちる。ゆうすけの前には「賭け事禁止」の札が立ち、発散の出口が塞がれた。

「手強い」

りょうたは、力技ではないと理解した。誰かが、五人の生活を調べている。調べたうえで、それぞれの弱い場所を折っている。

ログ

モニターが三台、サンドバッグの横に並んだ。りょうたの指が、昔の速さに戻る。広告の裏、数字の嘘、短期の成功が長期の欠損を隠す構造。ログは、人間の欲望の形をしていた。

「これが、本体だ。新しいプランを組む」

情報は五人の間を走った。たえには食事の組み立てを、けんたには新しい板を、ふかまっくすには予備のソフトを、ゆうすけにはキックの回数を。それぞれが、自分の道具で戦える形に戻る。相手が生活を調べたなら、こちらは生活で返す。

三つの虹

博多の夜に、五人は再び出た。たえは丼の湯気を胸にステップを踏み、けんたの新しいボードが大波を起こす。ふかまっくすの予備画面が目盛りを塗り潰し、ゆうすけは札の代わりに空気を蹴った。

「知識のITパワーパンチ」

巻尺がほどけ、薬の瓶が転がる。空に、三つの虹がかかった。屋台の蒸気が、またただの夕食の匂いへ戻る。

現場に、また電池はなかった。代わりに、小さな計量スプーンが落ちていた。りょうたはそれを拾い、手帳に挟んだ。リモコンの次は、計量。道具は、日常のキッチンから選ばれている。犯人は、家庭を知っている。

家庭の部品

計量スプーンは、百円店の棚に並んでいる。りょうたは同じものを三つ買い、現場のものと並べた。光の当たり方まで同じだった。特別な凶器ではない。特別ではないものが、特別な被害を出す。それが、この系列の型だ。

保健所の相談件数は、その週だけ増えていた。極端な制限、めまい、入院。原因食は特定できない。特定できないことが、すでに特定の形をしている。数字を恐れる心は、市内に十分あった。怪物は、その心を借りただけだ。

たえは子どもの弁当に、減らしていた自分の分を戻した。けんたは新しい板にロウを塗った。ふかまっくすはバックアップを二重にした。ゆうすけはキックの回数を、紙に書いて壁に貼った。生活を調べられたなら、生活で返す。それが、この回の答えだった。

三つの虹は、痩せることではなく、食べて動ける体に戻ることを照らしていた。りょうたは計量スプーンをしまわず、次の道具として手帳に挟んだ。

三つの虹は、気象カメラに残らなかった。残らない虹を、五人は見た。見たものを、警察の報告書には書かない。書く場所は、手帳だ。手帳の「リモコン、計量」の下に、りょうたは「家庭」と足した。家庭を知る者が、皿の上で街を止めようとしている。

未解決記録

計量スプーンの柄から白い点が外れた。記録していたのは食べた量ではない。皿を前に迷った一秒だった。