※ この物語はフィクションです。

忙しい毎日では、時間はいつも足りない。だから一分のずれは、ただの遅刻や寝不足に見える。カオスモンスターは、その言い訳ごと福岡の時計を飲み込んだ。

イヤホンを手帳に入れてから、駅の時計とスマホの時計が、一分ずれ始めた。りょうたは最初、電波の問題だと思った。改札の列が、同じ改札を二度通った気がする人が出た。過去と今が、薄い紙のように重なる。

駅の監視カメラは、改札を二度通った人物を映していなかった。映っていないことが、問題だった。記憶だけが二重で、映像は一回だ。時間の異常は、機械より先に、人の頭に来る。

壊れた腕時計の裏蓋に、小さな傷があった。ドライバーの滑り跡。素人の分解だ。プロなら、傷は残さない。生活習慣病団の手先は、専門家ではない。専門家ではない者が、日常の部品で街を止めている。その事実が、りょうたには、専門家の仕事より怖かった。

逆回りの針

空にひびが入った。ガラスではなく、時間の層が割れる音だった。時計の文字盤が竜の鱗になり、針が牙になって街を飲み込もうとする。後にカオスモンスターと呼ばれる。

竜の口の奥に、人の影があった。古びた旅装の使者。タイムトラベリンダーと名乗る。

「未来は壊滅的です。力が必要です」

オフィスの時計が十二時を何度も打つ。子どもの下校のベルが、朝に鳴る。福岡の一日が、畳まれて、ねじれた。りょうたは手帳の型番を見た。リモコン、計量、集音。次が時計なら、系統は生活の時間管理にまで伸びている。

「正しい過去じゃない。選び直せる未来を取りに行く」

五人は時計の渦へ踏み込む。けんたのボードが針の上を滑り、たえの髪が、風ではない時間に流れた。下に見えたのは、木造の軒と、まだ低い福岡の空。今のビルが、種の段階で揺れている。

過去の福岡

過去の福岡で、竜はさらに大きかった。けんたの波が時間の流れをたぐり寄せ、たえのダンスとふかまっくすの光が竜の目を眩ませる。ゆうすけが弱点の針を蹴り、りょうたが拳を沈めた。

「未来のITパワーパンチ」

竜の文字盤が砕け、針が雨のように落ちる。使者の影が、薄く礼を言った。ひびは閉じ、空に五つの虹が並ぶ。今の福岡の時計が、正しい音を取り戻す。

現場に残っていたのは、壊れた腕時計だった。電池は、第1話と同じ型番である。りょうたは、仮説を確信に近づけた。キライダーは消えていない。時間まで含めた「動かない街」を、段階的に組み立てている。

素人の傷

壊れた腕時計の裏蓋に、ドライバーの滑り跡があった。プロなら残さない傷だ。生活習慣病団の手先は、専門家ではない。専門家ではない者が、日常の部品で街を止めている。その事実が、専門家の仕事より怖かった。

駅の監視カメラは、改札を二度通った人物を映していなかった。記憶だけが二重で、映像は一回だ。時間の異常は、機械より先に、人の頭に来る。頭に来る異常を、事件にする言葉は、まだない。

使者は礼を言って消えた。消えた使者を、証拠にはできない。できない証拠が、いちばん気にかかる。気にかかるものを、りょうたは「履歴」の手前に置いた。時間をいじる系統は、第5話と、あとで来る第11話と第15話で、同じ線になる。そのときはまだ、線は一本に見えていなかった。

五つの虹が戻したのは過去ではなく、今を選び直す余白だった。りょうたは逆回りの針を見て、敵が時間より人の後悔を狙っていると知る。

五つの虹の下で、今の福岡の時計が正しい音を取り戻した。正しい音を、疑う。疑ったまま、レッスンを始める。それが、この男の礼儀だった。

未解決記録

壊れた腕時計の履歴には、時刻より先に『次に諦める予定』が保存されていた。未来を見たのではない。毎日の選択から、未来を計算していた。