※ この物語はフィクションです。
その日、福岡のだるさは、ただの疲れに見えた。
階段を避けたい気持ち、帰宅後に座ったまま動けない夜。誰にでもある小さな停止が、街全体へ広がっていく。
その日、福岡はいつもの火曜日だった。
その日、福岡はいつもの火曜日だった。普通すぎる朝ほど、異変は遅れて見つかる。
りょうたが最初に疑ったのは、空ではなかった。生徒のジャブが、半拍遅れた。目は開いている。次の一歩を踏む理由だけが、消えていた。
りょうた遅れたのは拳じゃない。理由だ。もう一回。
午後四時十二分。福岡タワーの先端が、急に暗くなった。
会社員がベンチに沈み、学生が画面を見たまま立ち尽くす。外傷はない。意識はある。ただ、動くことをやめた。
霧は雨ではない。お菓子の袋を開けた直後の、人工的な甘さだ。
リモコンを持った男。お菓子の袋で組んだ玉座。
運動キライダー次はこの福岡市を、動かない街にする。
午後四時二十八分。けんたの声は短い。転んだのではない。自分から止まっている。
土間の靴が五足。いつもの数が、今日は違う意味を持った。
りょうた準備はいいか。
たえが霧を裂き、けんたが気を放ち、ゆうすけが踏み込む。ふかまっくすが位置を組む。
暴力の被害者は叫ぶ。勧めの被害者は、黙って座る。
りょうたITパワーパンチ。
リモコンが落ち、電池が転がる。
空に、一本の虹がかかった。止まった人々が、自分の足を思い出す。
電池は現場に残された。拾わなかった一秒が、次の事件の入口になる。
つづく
未解決記録
割れた電池の継ぎ目で、針の穴ほどの白い点が一度だけ光った。電池切れなら光らない。だが五人の誰も、その瞬間を見ていなかった。